(薄暗い部屋の中、ランプの光を頼りに、机に向かってなにやら作業する男の姿)
【怪しい男】
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「!
・・・・・・こいつもダメだな。
たった一粒で味に影響しちまう・・・・・・ぶつぶつ」
「・・・・・・よしよし。
ムフフフフ・・・・・・」
「だんちょーーーーーーーーっっ!!!!!!!」
「!!??」
「バカ、バカ、バカバカバカバカっ!(ぽかぽかぽか)」
「いて!いてえなっ!
な、なんだなんだ一体!・・・・・・」
【ベルリナ】「それはこっちのせりふよっ!
あの団長が、背中を丸めて、こそこそ何やってるのかと思えば・・・
スタジオにまでコーヒー豆持ち込んで、ピッキングしてたのねっ!」
【カスガ(団長)】
「・・・・・・だ、だってよ。
気になんだよ!豆触ってないと、どうしても・・・いちちっ!つねるなっ」
「ばか!ヘンタイ!!ティーピーオーをわきまえなさいっ」
「お、お前にいわれたくは・・・」
【女性の声】「いや、ここは、そこの可愛い子ちゃんが正しいな」
「ん?――――――あっ!
・・・・・・あんたか・・・・・・」
【????】「あいかわらず熱心だな。カスガ。
ま・・・・・・男らしい所作と言えばそうだがね。
だが、いいかげん時と場所をわきまえたらどうだい」
「む・・・・・・そういうあんたはどうなんだい?
いつもの機械いじりに夢中で、部屋中干し物だらけなんじゃ・・・いでえっ!!」
「・・・・・・あいにく、私はその辺は徹底してる方だよ。
さ、道草はやめ。ベルリナちゃん、仕切ってくれないか」
「あ・・・・・は、はい!!
どきどき・・・・・・ええと、コホン、まずは、自己紹介を!」
「”マカロン”だ。プリムランドのとある山小屋で、科学者をやっている。
副業で発明もやるが、主なテーマは・・・人間の記憶能力といったところかな」
「人間の、きおく・・・・・・」
「こりゃまた、すげえディープな世界だな」
【マカロン】「フフン・・・・・・カスガにしては言い得て妙だな。
単なる”記録”ならば、機械だとか、紙と鉛筆だとかでも出来るが、
人間の記憶、というやつは、記録とは、いくつかの点で異なってるからな」
「記録と、記憶??」
「おお、なんかこんがらがってきたぞ・・・・・・」
「たとえば、記録は一度書き込めば、書き込まれた物が
自分から壊れたり、壊されでもしない限り、絶対に忘れられることはない。
何百年も何千年も昔の記録が残ってるのは、それが壊れていないからだ」
「なるほど・・・・・・何か書かれた紙が、焼けちゃったりしなければ、
ずっとその、きろく、は、記録として残っていきますね」
「まあ、紙が自分で”忘れてやる!”とかぬかして、
みずから燃えて無くなることはないわけだしな」
「そういうこと。――だが、人間の記憶は違う。
それを壊そうとしなくても、時間とともに、自然に、失われていくんだ。
あるいは。・・・そうだな、君の名前・・・”ベルリン”ちゃん・・・であってる?」
「えっ!あ・・・・・・べ、ベルリナです」
「と、こんな風に、一度聞いただけでは、人間の記憶はあいまいなものだ。
ヘタをすると、間違ったまま記憶してしまって、後で一大事になることも多い」
「な・・・・・・なるほど。たしかに」
「ほお・・・・・・けっこう、たよりないもんだな。人間の記憶ってやつも」
「――ところが、だ。
そのあいまいさに、人間は、時に助けられることもあるんだよ。
たとえば、カスガ」
「へっ?な、なんだ、やぶからぼうに」
「お前は昔、失恋したことがあるか?」
「えっ?」
(・・・・・・!)
「・・・・・・どうだ?」
「・・・まあ、十代のケツの青い頃は、よくホレちゃあ、失恋してたな」
「なら、お前はそのとき、何時何分、どの場所で、どんな失恋をした?
あるいは、失恋した瞬間の、相手の女の子の表情や、言葉の一言一句、
そしてそのとき、お前が味わった気持を、正確に憶えているか?」
(えっ、ええっ!!ここにきて、ここにきて予想外の質問だよう・・・・・・団長)
「・・・・・・うーん・・・・・・うーん・・・・・・いや憶えてねえ。
たまにぼんやり、夢の中でみかえしてるような気もするが、
そのときの言葉や気持なんてのは、もうかなり怪しい記憶だぜ」
「そうだろうな。
なら、最後に聞くが、お前は自分の失恋を、よく憶えてない、という。
そのことで、お前自身、損をしてると思うか?」
「んん・・・損?」
(・・・・・・どきどき・・・・・・ベルリナ・・・・・・どきどきする・・・・・・こわいよう)
「・・・・・・わからねえ。
ただ、もし、絵や紙に書かれたように、失恋した瞬間のことを
今も100パーセント、はっきり憶えていたとしたら」
「いたとしたら?」
「何年も何年もおなじ十字架を、しょいつづけてるみたいだよな。
けっこう、つらいんじゃねえかな。生きていく上で」
「と、まあ・・・・・・そういうことだ」
「・・・・・・あ」
「そうか・・・・・・!
なるほど・・・・・・なあ」
「――といったところで。さ、いつものやつをもってきてくれ」
「いつもの・・・・・・あっ!立ち絵ですね。
団長っ」
「へ、へいっ!」

「持ってきたぞ!あんたの・・・・・・って、あれっ?あいつは?」
「あっ!――
マカロンさん、長く喋りすぎたからって、帰っちゃったの。
夜の研究のスケジュールに間に合うように、だって・・・・・・」
「あ、ああ?なんだよそりゃあ!・・・・・・
そういうのは、ティーピーオー、っていわねえのか?」
「うーん。ある意味、時間に正確、とはいえるかも」
「ふにおちねえなあ~・・・・・・あっ!ひょっとすると
それは建前で、ホントはあいつ、自分の絵姿に自信が無いんじゃ・・・うぎっ!」
「デリカシーのないパートナーをもつと、苦労するな、ベルリナちゃん。
ふたりに手土産を渡すのを忘れて、あわてて戻ってきたよ」
「いてえ・・・・・・いきなりケツをつねらんでも」
「記憶中枢のつまった頭を狙わんだけマシと思え。
さて、その手土産なんだが・・・・・・
私の知り合いのある人物が、ふたりをお茶の席に招きたいそうだ」
「あっ・・・・・・!
・・・・・・・すごい・・・・・・・
お茶会の・・・・・・招待状!!!」
「少々気むずかしいが、会う価値はある人物だ。
せいぜい、失礼の無いようにな。
じゃあ今度こそ失礼する。ベルリナちゃん、また会おう」
「は、はいっ!!本日は、ありがとうございます!」
「ううっ、マカロンめ・・・・・・とっとと去っていきやがった」
「団長!すてき!お茶会だよっ!!
マカロンさんも、来たら良いのになあ・・・
今日のお話、ためになったなあ・・・・・・ドキドキしたけど」
「んで、これが招待状か、なになに。
・・・・・・ん?
【会場:グラモード城】・・・・・・ってのは・・・・・・」
「グラモード・・・?前回のカノーさんが働いてる、グラムース城じゃなくて??
はー・・・・・・ほんとだ。プリムランドには、お城がふたつあるんだね」
「・・・・・・ベルリナ、この城、どこにあるか知ってるか?」
「ううん、知らない。団長は」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・行く、か?」
「・・・・・・う。
ベルリナは・・・・・・行きたい・・・・・・よ。
かなり・・・・・・すごく・・・・・・行きたい」
「まあ、オレも・・・・・・なんだが。
参ったな・・・・・・マカロンは帰っちまったし」
「・・・・・・うーん、どうしよう。
次回のゲストさん達に、聞いてみようか?」
「それしかねえなあ。
みんなの情報を頼りに、場所をわりだすか。
はあ・・・・・・それにしても、マイペース科学者め・・・・・・」
「マカロンさんって、団長の、お知り合いなの?」
「・・・あれで、オレより年上なんだぜ。
さんじゅう、はわがっ!!!!」
「あっ!お尻に風車がささってる・・・・・・」
